「①離婚までの婚姻費用を月額10万円、②離婚時の財産分与金を約500万円しか妻に支払わない」と主張する夫と調停・訴訟で争い、①夫が妻に離婚までの婚姻費用を月額20万5000円支払う内容で婚姻費用分担調停を成立させ、②妻が財産分与として1170万円を夫Bから取得する内容で和解離婚した事例
依頼者 妻
夫 会社員 東京都在住
妻 主婦 箕面市在住
離婚原因 別居から約3年が経過した
きっかけ 夫に自宅に帰れないようにされ、離婚を求められた
財産 預貯金・退職金・株式・投資信託
子ども なし
Aさんは、実家に帰省していたところ、突然夫Bから「離婚する。もう家に帰ってくるな。」と一方的に告げられ、自宅に帰れないようにされました。
また、Aさんは、別居後夫Bに婚姻費用を内容証明郵便で請求していましたが、夫Bが依頼した弁護士からは理不尽な額しか提示されなかったため、当方に依頼されました。
Aさんはもともと専業主婦であった上、夫Bと別居後体調を崩しており、すぐに働けるような状態ではなかったため、夫からしばらく十分に生活できるだけの財産分与金等が取得できない限り、離婚には応じないという意向でした。
そこで、弁護士は、離婚に応じるかどうかは夫Bからの離婚条件に関する提案を待ってから検討することにして、当面のAさんの生活費を得るために、婚姻費用について夫Bと交渉しました。
婚姻費用は、原則として夫婦それぞれの年収や子どもの人数・年齢に応じて、裁判所が出している算定表に照らして金額が決められます。
Aさんには子どもがいませんでしたが、Aさんには収入がなく、夫Bは高額所得者だったため、算定表に照らすと婚姻費用の金額としては20万円~21万円程度と考えられました。
しかし、夫Bは「Aさんは実家で生活しているのだから、婚姻費用としては10万円が相当である。」と主張してきました。
実務上、婚姻費用の請求権利者が実家で生活しているかどうかは、婚姻費用の算定にあたり原則として考慮されません。
弁護士はこのことを夫Bに粘り強く説明しましたが、夫Bは全く提示額を増額させる様子がありませんでした。
そのため、弁護士は婚姻費用分担調停を申し立て、「夫Bの主張に法的根拠はない。夫Bがあくまで算定表以下の金額しか提示するつもりがないのであれば、審判に移行して裁判官に婚姻費用の金額を決めてもらって構わない。」と主張し、夫Bと交渉しました。
その結果、夫Bは「月額20万円の婚姻費用なら支払う」と提案してきました。
20万円でも算定表の金額の範囲内でしたが、弁護士は更なる増額を求めて夫Bと交渉し、最終的に離婚が成立するまで月額20万5000円の婚姻費用をAさんに支払うことを夫Bに認めさせ、婚姻費用分担調停を成立させました。
その後、夫Bは、自身の預貯金等の財産を開示した上で、「財産分与としてAさんに約500万円を支払う」という離婚条件を提示してきました。
しかし、夫Bが開示してきた財産資料では夫名義の財産が別居時点で約2900万円程度あるにもかかわらず、夫Bは「そのほとんどが特有財産又は専ら夫Bの才覚によって取得した財産である。」と主張し、財産分与額を極めて低く算定していました。
財産分与は、別居時点での夫婦共有財産を2分の1ずつ分けるのが原則です。
夫Bの開示してきた財産資料によれば、別居時点での夫B名義の財産の一部が特有財産であることは分かりましたが、夫Bが主張するような「ほとんどが特有財産又は専ら夫Bの才覚によって取得した財産」とは考えられませんでした。
そのため、Aさん名義の共有財産を考慮しても、裁判になった場合、Aさんは少なくとも1000万円以上の財産分与金を取得できると考えられました。
また、上記のとおり月額20万5000円の婚姻費用を前提とする婚姻費用分担調停が成立していましたので、Aさんは、離婚しなければ婚姻費用として毎月20万5000円を夫Bから受領できる状態にありました。
そのため、弁護士はAさんと相談した上で「早期離婚に応じる解決金を含め1700万円を夫BがAさんに支払う」という対案を夫Bに提示しました。
しかし、それでも夫Bに財産分与金を増額する案を提示する気配が全くなかったため、示談交渉は決裂し、夫Bがその後申し立てた離婚調停も調停成立の可能性がないことを理由に第1回期日で不成立になりました。
その後、夫Bは離婚訴訟を提起してきました。
訴訟においても、夫Bは「夫B名義の財産はほとんどが特有財産又は専ら夫Bの才覚によって取得した財産である」と主張してきました。
また、Aさんが結婚前に貯めていた預金を使って購入した約500万円の投資信託について、夫Bは「これも全額共有財産であるので、2分の1を夫Bが取得すべき。」と主張してきました。
弁護士は、夫Bの主張が極めて理不尽であり、法的に認められる余地がないことを主張・立証した上で、Aさん名義の投資信託がAさんの特有財産であることを裏付ける証拠を裁判所に提出しました。
その結果、裁判所は、「財産分与として、夫BがAさんに対して1170万円を支払う」というAさん名義の投資信託がAさんの特有財産であることを前提とした和解案を提示しました。
別居から3年以上経過すると実務上婚姻関係が破綻していると判断されることが多いため、判決で離婚が認められる可能性が高くなります。
Aさんの場合、裁判所が上記の和解案を提示した時点で既に別居から3年近く経過していましたので、判決が出るころには別居から3年以上が経過することが明らかでした。
そのため、離婚自体を争っても離婚の判決が出る可能性が高いと考えられました。
また、それまでにAさん・夫Bがそれぞれ裁判所に提出した証拠状況からすると、判決になった場合、裁判所の提案している以上の財産分与額が判決で認定される可能性は極めて低いと考えられました。
弁護士がAさんにそのことを説明したところ、この時点で夫Bと別居してから合計約580万円の婚姻費用をAさんが夫Bから取得済みであったこともあり、Aさんは裁判所の提示した和解案で離婚することに納得されました。
また、それまでに弁護士が行った「夫Bの主張が理不尽であること」の主張・立証を受けて、夫Bも、Aさんに対する財産分与額を約500万円にするのを断念し、裁判所の提示した和解案で離婚することを認めました。
そのため最終的にAさんが夫Bから財産分与金として1170万円を取得する内容で和解離婚を成立させました。
Aさんからは、「弁護士への初回相談の際、弁護士が今後の見込みを踏まえて行ったアドバイスに従ってAさんが行動していたおかげで、依頼後の夫Bとの交渉でAさんが不利益を受けることがなかったので、今思い返すと非常に密度の濃い30分だったと思う。」「依頼後、弁護士に夫Bと強気で交渉してもらえたので、すごく安心できた。」等の感謝のお言葉をいただけました。
寺尾 浩(てらお ひろし)
平成4年3月 一橋大学法学部卒業
平成9年 司法試験合格(52期)
離婚交渉は当事者にとって精神的につらい作業です。
また離婚は、過去を断ち切って新たな人生の一歩を踏み出す行為ですから、いつまでも過去(離婚交渉)に時間をとられるのは両当事者にとって得策ではありません。そのため、私は離婚問題を早期に解決することを重視しています。
問題を解決する方法は一つしかありません。それは行動を起こすことです。1人で悩んでいても、同じ考えが頭の中をぐるぐるするだけで、何の解決にもなりません。思い切って専門家にご相談ください。
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