熟年離婚をお考えの方へ
目次
一般に20年以上の婚姻期間の後離婚することを熟年離婚といいます。
テレビやラジオでも話題になっている熟年離婚ですが、実際に熟年離婚する夫婦の数は近年増加傾向にあり中高年以降の離婚はもはや珍しいことではなくなっています。
離婚件数全体の中で婚姻年数20年以降の熟年離婚が占める割合は約15%を占め、別れる夫婦のうち7組に1組は熟年離婚という結果が出ています。
熟年離婚の割合はここ10年で約2倍に増えており、日本の離婚状況の中でもかなり特徴的な動きが見られます。特に婚姻年数30年以上という超熟年離婚の伸び率が激しく、長く連れ添った夫婦が離婚するケースが後を絶ちません。
熟年離婚が増加する要因はいくつか考えられるのですが、離婚に対する後ろ向きなイメージが少なくなったことが熟年離婚の増加を後押ししている一つの要因として挙げられます。
一昔前までは離婚といえばマイナスのイメージが付きまとうものでしたが、最近はマイナスイメージが随分と改善され離婚に対する精神的なハードルが低くなっています。世間体や評判を気にして離婚に踏み切れなかった夫婦が時を経て離婚を決断するようになり、熟年離婚の件数が増加していると考えられます。
熟年離婚増加のもう一つ大きな要因と考えられるのが、経済的な問題が解決されたことです。離婚したくても離婚できない原因のひとつとして経済的な問題があげられますが、制度改正や社会情勢の変化によって経済問題の解決が容易になったのも熟年離婚が増加している原因と考えられます。
一昔前までは夫が外で働き妻が専業主婦として家庭を守る夫婦の形態が一般的でした。しかし、女性の社会進出により夫婦共働きの世帯が珍しいものではなくなり、今では多くの夫婦それぞれが独立して生活できるだけの経済力を持つようになりました。離婚してしまうと収入が途絶えて生活ができなくなってしまうという心配がないため熟年夫婦でも離婚という選択肢を選びやすく、以前なら経済的な問題で離婚できなかったような夫婦が離婚という選択肢を選ぶようになったことが熟年離婚増加の一つの要因です。
経済的な問題を考えるうえでもう一つ重要なのが年金分割制度の導入です。以前は年金は世帯単位で計算されていたため、長年年金をかけ続けていた夫婦が離婚してしまうと夫婦それぞれが年金を受け取ることはできませんでした。せっかく年金に加入していても離婚してしまったら年金が無くなってしまうわけですから、お金のために老後も夫婦を続けるという選択をする夫婦が存在していたのです。
2007年4月から施行された年金分割制度により、夫婦離婚した場合は加入していた年金を分割してそれぞれが受け取れるようになりました。分割の対象となる年金の種類や対象期間に制限があるため必ずしも年金分割だけで暮らしが支えられるわけではありませんが、離婚におけるハードルが一つなくなったことも事実です。統計上の数字の上では年金分割による離婚件数の大きな増加はありませんが、多くの夫婦に熟年離婚という選択肢があることを意識させたという意味では年金分割が熟年離婚の増加に多大な影響を与えたことは間違いありません。
熟年離婚率は増加の一途をたどっていますが、今後どうなるかははっきりとしたことはわかりません。夫婦のあり方そのものも大きく変わっていますから、熟年離婚を他人事とは思わず自分に関係することとしてとらえ真剣に向き合うことが重要です。
熟年離婚を最初に言い出すのは女性が圧倒的に多く、その要因としては、先の年金分割制度の法律改正後、女性であってもひとりで生活できることが確約されたことがきっかけです。このことを期に熟年離婚を選択する人が多くなってきているのです。夫婦間に発生する問題というものは、外の人間からはわかりづらく、夫婦間にしかわからないことがほとんどです。
熟年離婚に至ってしまう原因にはさまざまなものが存在します。
そのひとつに、今まで仕事一筋でがんばってきた男性が定年退職して、男性にとってはゆっくり家で過ごせると思っていることが大半なのですが、女性からしてみればネガティブに思ってしまうことが多く、ストレスに感じてしまう場合が多いのです。
非常に仲の良い夫婦に見えていたとしても、今まで長く家を守ってきた女性にとっては、今までの蓄積されてきたストレスが原因で、自分だけの生活を取り戻したいと考える人が多いのです。
そのほかには、男性のギャンブル依存などの問題を抱えているケースも存在します。いままでギャンブルに依存しがちの旦那さんを支えてきたのだが、結果的に家庭崩壊や自己破産など、借金に追われてしまう生活に疲れ果て、最終的に熟年離婚を決心するというプロセスに達するケースも決して少なくありません。
また、熟年離婚をしてしまう夫婦の特徴として、嫁姑問題も存在しています。年配の方には、昔ながらの考えが根付いていることもあり、嫁に対する態度、嫁から姑に対する態度が厳しくなり、意見の対立が発生し、そのまま人間関係に疲れ果ててしまい、離婚問題煮にまでつながってしまうなんてケースも存在します。
それから、熟年離婚を考えている夫婦、特に女性側に見受けられる特徴としては、離婚を考え始めたころから旦那さんに内緒で貯蓄をしたり、自立を目指した行動を開始します。
そのことが原因となって、離婚後の生活は問題なく、一定以上の生活は問題ないといわれています。そのため、熟年離婚をする夫婦間の特徴として、急に奥さんがお金を使わなくなった、倹約を重要視するようになった、隠れて貯蓄をしているなどの行動をとり始めたときには、熟年離婚の可能性が非常に高くなると考えていいでしょう。
男性は仕事一筋、女性は家を守り続けたというケースの夫婦間の場合、いままで女性が家事をすべて行ってきたのですから、もちろん生活には困りません。しかし男性の場合、いままで仕事ばかりをしてきて、家事を奥さんにまかせっきりであったので、いちから勉強しなければいけません。
そのことから熟年離婚をした男性は、不慣れな料理屋選択などをすべて一人で行っていく必要があるのです。
熟年離婚を経験した男性の特徴としては、せっかく今まで仕事面で苦労してきたのに、定年後には家事で再度疲れ果ててしまうことが頻繁に起こっています。
そのため、安定した生活を送ることが難しくなってしまい、食生活の乱れ、体調が優れない、不摂生、ギャンブル依存などの問題を起こしてしまう可能性が高くなってしまうのです。
ちなみに、熟年離婚の場合、離婚を切り出す女性が、それ以前からいろいろな計画を緻密に立てて、子供が成長して手がかからなくなった時期をきっかけに、離婚に踏み出すことが特徴となっています。
熟年離婚する場合、子どもは成人していますので、妻は養育費を受け取ることができません。年齢が高いため、就職して生活費を確保することも困難です。
そのため、熟年離婚においては、財産分与で十分な資金を確保することが極めて重要になります。
熟年者の場合、若い方と違って大きな資産を形成されている方が多いです。
そのため、財産分与の対象となる財産を全て調査して、財産を正確に把握することが必要となります。
熟年者は、多大な資産を相手方に渡すまいと財産を隠す傾向がありますから、離婚を切り出す前に財産調査を終わらせておく必要があります。
何が財産分与の対象になり、それを立証する証拠をどうやって収集するかについては高度な専門的知識・経験が必要です。
したがって、離婚問題を専門とし、財産分与問題について多数の相談・事件を取り扱っている弁護士に相談する必要があります。
① 不動産(自宅・収益物件)
② 預貯金
③ 保険(生命保険・学資保険等で貯蓄型のもの)
④ 動産(車・家財道具等)
⑤ 有価証券(株式・会員権等)
⑥ 退職金(将来受け取るものも含む)
⑦ 企業年金
このうち①不動産②預貯金については、サラリーマン・公務員・大学職員に特有な問題として解説し、ここでは③保険④動産⑤有価証券⑥退職金⑦企業年金について解説します。
掛け捨ての生命保険には財産的価値はありませんが、積立式の生命保険については財産的価値があります。
熟年者の場合、長年にわたって保険金を支払っていますから、解約する場合の解約返戻金が数百万円になることがあります。
これを調査して財産分与の対象としなければなりません。
家財道具は一般に時価評価額が極めて低いので、財産的価値を検討して財産分与することはほとんどありません。テレビ・レコーダー・パソコンなどをどちらが引き取るかが問題になる程度です。
しかし熟年者の場合、夫婦の一方が宝石等の貴金属、高級な時計・自動車、小型船舶などを所持していることがあります。これらは全て夫婦共有財産になり得ますから、これらを調査・時価評価して財産分与しなければなりません。
熟年者の場合、余った資産で株式投資を行っていることがあります。
このような場合には、その株式を調査・特定して評価し、財産分与の対象とする必要があります。
熟年者の場合、既に退職しているか、または近いうちに退職する可能性が高いです。まだ支給されていない退職金であっても、退職金は財産分与の対象になります。
実際に退職するのが何年か先であっても財産分与対象とできますので注意が必要です。
まだ支払われていない退職金の場合どうなるかについて、離婚を専門としない弁護士の中にはご存知ない方が多いです。
現在では、大阪家庭裁判所でも東京家庭裁判所でも、「まだ支払われていない退職金も財産分与の対象とする。」という運用がなされています。
かつて裁判所は、「退職まで7年以内であれば、財産分与の対象とする」という運用をしていました。そのため60歳定年の場合、53歳を超えるかどうかが一つの基準となっていました。法律専門書にも同様なことが書かれています。そのため弁護士の中にも、かつての裁判所の運用を説明する人がいます。
しかし、退職金は労働の後払的性格のものですから、現在では、いかに若くとも退職金は財産分与の対象とされます。具体的には、別居時に自己都合退職した場合の退職金を算出し、それを財産分与対象財産とするのです。この裁判所の運用に即した戦略が必要になってきます。
退職金については最新の裁判所の動向に即した戦略が必要となります。離婚問題について研鑽を積んでいる経験豊富な弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
確定搬出年金・確定給付年金等の企業年金は、厚生年金と異なり年金分割の対象にはなりません。
しかし、退職時に一時金と年金とを選択できる企業年金の場合は、一時金を選択した場合の見込み額を基準に財産分与されることが多いです。退職金と同様、高額になることが多いので、注意が必要です。
一般の会社員の場合、夫婦共有財産を財産分与するときには、夫婦それぞれが2分の1ずつ取得します。たとえ妻が主婦で収入がなかったとしても、妻が育児・家事をしたことは、夫と同じ収入の労働をしたと評価されるのです。
夫が厚生年金を支払っていた場合、主婦だった妻は夫の年金の分割を請求できます。分割してもらえるのは、夫が婚姻期間中に納めた厚生年金部分です。したがって婚姻期間の長い熟年者の場合、分割してもらえる年金は若年者に比べて多くなります。
年金分割については必ず手続きすべきです。
寺尾 浩(てらお ひろし)
平成4年3月 一橋大学法学部卒業
平成9年 司法試験合格(52期)
離婚交渉は当事者にとって精神的につらい作業です。
また離婚は、過去を断ち切って新たな人生の一歩を踏み出す行為ですから、いつまでも過去(離婚交渉)に時間をとられるのは両当事者にとって得策ではありません。そのため、私は離婚問題を早期に解決することを重視しています。
問題を解決する方法は一つしかありません。それは行動を起こすことです。1人で悩んでいても、同じ考えが頭の中をぐるぐるするだけで、何の解決にもなりません。思い切って専門家にご相談ください。
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