不倫裁判で弁護士はどこまで調べてくれるのか
離婚を決意するには、それなりにきっかけと覚悟が必要です。あなたが男性であれ
女性であれ、結婚生活の間に夫婦として積み上げてきた財産や年月、経験や人間関係に
至る自分の私生活や仕事の全ての面において、離婚することによって生じる変化からの
大なり小なりのダメージを受けることになるからです。
ダメージのうち、金銭や物といった形のあるものはいずれ何らかの形で原状回復できる
こともあると思いますが、負った精神的なダメージは人それぞれ深刻さや意味合いが
違ってくるので、なかなか周囲の人に理解してもらうことも難しく、その分回復も
難しいと言えるでしょう。
その離婚に伴う精神的ダメージの中で、特に深刻なのがパートナーの不倫によるものだと
思われます。
不倫というと、現代ではありふれたもののようにとらえがちですし、他人事であるうちは
「大したことではない」と思えますが、いざ自分の身に起きた時、平静でいられる人は
そう多くはありません。相手によせていた信頼を裏切られたことへの痛みや、むざむざ
騙されていた自分自身に対する怒りといったものが一度に降りかかってくるからです。
また、その「不倫」が一過性のものであれば、まだやり直しの余地も残されてはいますが
不倫の二人が本気になってしまい、こちらが心の準備も何も出来ないうちに離婚を
迫ってきたりした場合、圧倒的に不利なのは不倫された側、という本末転倒なことに
なってしまいます。
そうした事態に対処するのに、一般の人がすぐ思いつくのが「弁護士に相談する」という
ことでしょう。
ドラマや映画では人情味あふれる熱血タイプか、あるいは酸いも甘いもわかりつくした
プロ中のプロのような弁護士が、事務所に依頼人が現れるやいなや、まるでマジックの
ように手を尽くして依頼人の有利になるような証拠を次から次へと調べ上げてくれ、
それを元に裁判でも依頼人の望む判決を勝ち取ってくれるものですが、現実はそんな風に
運ぶことは、ありえません。
まず弁護士に離婚問題で相談する、このこと自体は非常に正しい方法です。
しかし弁護士というのはあくまでも法律に基づいて依頼人に法的なアドバイスを与えたり、裁判などで依頼人の立場に沿った代理人として主張を述べたり法的手続きの処理に
当たったりすることが主な職務であり、依頼人の裁判や示談に有利になるような証拠を
集めたり、調べたりすることは弁護士の本来の業務の範疇ではありません。
なぜならば、弁護士には警察の持つような捜査権がそもそも与えられていません。
ですから、例えば不倫相手に依頼人の伴侶が金銭的援助として月々支払っていたとしても
不倫相手の銀行口座を調べることなどはできません。弁護士法23条による「照会」も
あくまで文書で問い合わせることしかできませんし、たとえばこの場合、銀行が「不法行為や犯罪でもなく、顧客のプライバシー保護の観点から断る」と言えば、それ以上の
強制力はありません。同じように、例えば「不倫相手と旅行に行っていたはずだから、その旅行の手配を頼んだ旅行代理店を調べてくれ」、と言っても無理です。
同じようにドラマではよく見掛ける弁護士事務所の若手弁護士や事務員が、不倫相手の
家を見はったり、隠し撮りをしたりすることもあり得ません。
例えば、その家の家賃が依頼人の伴侶の口座から引き落としで支払われていた場合、
依頼人自身がその家の敷地に入ったり、あるいはマンションの共有部分に入ったりしても
不法侵入に当たる可能性は低いと思われますが、弁護士やその弁護士事務所の職員が
入り込めば、場合によっては家宅侵入罪や盗撮に問われる可能性もあります。
法律の専門家である弁護士が使用者責任が問われるそのような事をするわけがありません。
不倫が原因の離婚訴訟の場合、勝訴するためには不貞行為の確かな証拠があればあるほど
有利なことは言うまでもありませんが、それを弁護士に求めるのは無理なことです。
依頼人が相談に出向いた時点で、こうした出来ることと出来ないことをきちんと説明して
安請け合いや紛らわしい期待をもたせるようなことを言わず、依頼人にできる形での
証拠集めを指南してくれるような弁護士に相談・依頼することが大切でしょう。
寺尾 浩(てらお ひろし)
平成4年3月 一橋大学法学部卒業
平成9年 司法試験合格(52期)
離婚交渉は当事者にとって精神的につらい作業です。
また離婚は、過去を断ち切って新たな人生の一歩を踏み出す行為ですから、いつまでも過去(離婚交渉)に時間をとられるのは両当事者にとって得策ではありません。そのため、私は離婚問題を早期に解決することを重視しています。
問題を解決する方法は一つしかありません。それは行動を起こすことです。1人で悩んでいても、同じ考えが頭の中をぐるぐるするだけで、何の解決にもなりません。思い切って専門家にご相談ください。
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